Home / 青春 / 麻雀食堂―mahjong cafeteria― / その1 第九話 手順1つで味は変わる

Share

その1 第九話 手順1つで味は変わる

Author: 彼方
last update Last Updated: 2025-07-27 11:00:00

9.

第九話 手順1つで味は変わる

 今日は鳴き判断についてザックリと教えてもらった。

「鳴ける=面子完成なわけだから、鳴ける=得と考えてても不思議ではないが、実際のところはそうじゃない。なんでかわかるか?」

「んと、なんでだろう。ちょっとわかりません」

「よし、じゃあコレどう思う」

 そう言うとメタさんは自動卓の牌をひょいひょいと集めて手牌を再現した。

再現手牌

三四四④⑤⑥⑦⑧66688

「これ、なんとしても③⑥⑨筒引きしたいと願うか? いま最も必要か?」

「……いや、できたらそこは残してテンパイしたいっすね。3面待ちが残ればアガリの可能性が高くなりますから」

「だよな。つまり鳴きも同じよ、先に埋めたくない面子というのがある。リャンメンターツなどは最終形として優秀だから残しておきたい。手が進むからと言ってリャンメンから鳴くこと自体感覚がズレてるってことよ」

「あっ、なるほど」

「同じ食材があるとして同じ料理を作るつもりでも手順1つ違えば味が変わる。それと同じね」とあやのさんが言った。

 これは分かりやすい例えだ、料理と麻雀は似ているのかもしれない。

「つまり、まとめるとこういうことっすね。

 麻雀は配牌から最終形をイメージするだけでは足らない。配牌からどの順番で手を進めて最終形の待ちをどう残すかというルートまでもイメージしていなければならない。それが出来ていないと鳴きも不可能。と、いうことでよろしいですか」

「おまえ……説明の天才か。その通り過ぎて驚いたわ」

「サラリーマンっすからね。商品の説明とかすんのは日常茶飯事なんで」

「へぇ〜。イヌイさんはどんな仕事してるの?」

「や、つまんない仕事なんで、その話はやめましょう。俺はここに仕事を忘れに来てるんで!」

「あら、ごめんね。そういうことならこれ以上聞かないわ。仕事の疲れとか全部ここで癒やしてって下さいな」

 麻雀で疲れが癒えるかと言われればそこは疑問ではあったが、ただ麻雀での疲れは別なんだよな。

 俺にとってそれはスポーツをしたあとの爽やかな疲れに似ていて、仕事のあとの苦しい、もう一歩も歩きたくないような、立つのも嫌な疲れとは違うものだった。

────

──

 メタさんに麻雀を教えてもらってるうちにいつの間にかいつもの面子も来店してた。

「カン。マキ。食べ終わったらやるだろ?」

「もちろん」

「やるわよ」

 2人はガツガツと食事をする。その一口一口に(うまい、うまい)と感じているのが表情から伝わってくるほど美味そうに食べていた。

 あやのさんはそんな2人を見て満足そうにニコニコしてる。

「おかわり」と言って犬飼さんがご飯茶碗を差し出した。

「ふふふ。あまり食べ過ぎないようにね、もう若くはないんだから」

「う。その現実、悲しいな〜」

「健康こそ最大の美よ。美しいマキのままでいればきっといい人が見つかるから。おかわりは小盛りね。マキの幸せのためよ」

「ちえっ。分かりました〜」

 そこまで面倒を見てくれるのか、と俺は驚いた。もう、この食堂は客と店員じゃなくて……なんと言えばいいんだろう。そう、まるでひとつの家族のようだ。

 俺もその家族に入れてもらえたりしないかな。なんて思った。そんな日だった。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 麻雀食堂―mahjong cafeteria―   その2 第七話 長期連載

    16.第七話 長期連載「お兄ちゃん。今日行くとこって到着まで何分くらいかかる?」「駅から駅までは35分ってとこだな。特急に追い抜きされる場合は40分弱だ。この時間は抜かれないはず」「ふーん。そしたら一応トンプーかな」「トンプー?」 見てみると美咲はケータイで麻雀アプリを開いていた。「おまえ、麻雀できるのか?!」「最近ハマってんの。イケメンのキャラも無課金で当たったし」 見てみると、人気ラノベ『駒と恋するアヤメさん』のヒーローキャラ『龍王ヒビキ』を美咲は使っていた。「いやこれ、将棋小説のキャラだろ。麻雀アプリとコラボとかちょっとおかしくねーか」「ま、いいんじゃない。カッコイイし。人気キャラなのよ」 たしかに、将棋好きに麻雀好きは多かったように思う、俺の行っていた高校は将棋部が強い事でちょっと有名で同じクラスにも将棋部の部員が何名かいたが、あいつらいつも麻雀の会話しかしてなかったからな。どちらも頭を使う対人ゲームだから共通するものがあるのだろうか。「ちなみに私のはまだ成る前のヒビキだからね。飛車ヒビキだよ。さてはお兄ちゃん『駒恋』あんまり知らないでしょ」「あっ、うん。三山アオの小説はけっこう読むんだけど、駒恋はほら…シリーズ長いだろ? だからまだ手を付けてないんだよな」「甘い! お兄ちゃん、いいですか。長く続けてるシリーズものこそ面白い小説なの。それはその作者が『書くのをやめたくない!』と思うほどの作品ってことなんだから。面白い作品と一番別れたくないのは他ならぬ作者本人なのよ。だから長期連載ものは面白いのが多いの。それを読まないなんてもったいない!」「なるほど。お前ずいぶんと書き手の気持ちに寄り添えるんだな。……もしかして、小説書いてるとか?」

  • 麻雀食堂―mahjong cafeteria―   その2 第六話 妹との休日

    15.第六話 妹との休日 カーテンの隙間から陽の光が差し込んで目が醒めた。いつもならそれでもまだ起きたりせずゆっくり休むのだが。しかし、今日は土曜日だ。(きっとみんな集まる)と思って俺は仕事でもないのに休日の午前中にわざわざ着替えていそいそと出かける準備をした。 行き先はもちろん『麻雀食堂』だ。 麻雀食堂は仕事の帰りに寄るにはちょうどいいが休みの日にわざわざ行くには離れてる。けど、もう行きたくて仕方ない。「あれー、お兄ちゃん今日仕事ないんじゃないの? 起きるの早いじゃん。どうしたの?」「うん……ちょっとな」 俺は母と妹と俺の3人で暮らしてる。親父はけっこう前に俺達を捨てて出ていった。理由なんか知らない。ただ、あの優しい母さんが怒ってたってことは覚えてる。つまりろくでもないんだろう。そんな男なんてもう顔も忘れたよ。 母さんはタクシードライバーで、家にいない時はしばらくいない。今日は家に妹と2人だ。「これお母さんが、お兄ちゃんも休みだから今日は久しぶりに2人でごはんでも行けばって置いてったお金」 俺が学生の頃は妹の美咲と2人で近くのメシ屋までごはんを食べに行ったり弁当をスーパーに買いにいったり、そういう日が多かった。でも今は俺はもう社会人だし妹だってバイトしてる。いつまでお昼ご飯代を置いていくつもりなのか。お金なら俺も稼いでいるし、そもそも美咲は冷蔵庫の食材で適当に料理できるというのに。「俺はいらないから美咲が持ってろ」「ラッキー! ねえ、お兄ちゃん。ごはんはどうするの?」「パンでも焼くよ」「それは朝ごはんでしょ。そうじゃなくてお昼ご飯。何食べる?」 昼代はいらないと言ったはずだが、妹は俺がお昼を一緒に食べるものだと思っているようである。

  • 麻雀食堂―mahjong cafeteria―   その2 第伍話 安全牌を危険牌にする

    14.第伍話 安全牌を危険牌にする メタが行った高度なツモ切りリーチとはどんなものだったのだろうか。俺は初心者だから聞いても理解できないかもなと思いつつも2人の話を聞いてみた。メタ手牌二三三四四伍七八九③④11 状況は2索が場に4枚見え。このダマをしてる時に6索のポンが入りツモ切りリーチ。「これねー。一見全然関係ないじゃん? でもここはツモ切りリーチが効果的なのよね」「さすがに俺にはわかりません。なんでですか?」「例えばね、6索のポンが入ったならその外跨ぎにあたる78索は使いにくいから通りやすいし9は当たり牌を見逃してることになるからやはり切りやすいの」「ふんふん」 俺はなんとなく納得して頷いた。「しかも今回は2索が4枚見えてることにより索子が手前は3索までしか無い場になってる。ということは56索という内跨ぎも同様に切りやすくなったという事。3索も9索と同様で見逃しをしてることになるから切りやすい」「なるほど」「という変化をした瞬間にリーチをしたとしたら?」「?」 わからない。したらどうなるんだろう。「つまりね、345789索は6索ポンにより安全性が高い牌という状況変化があり安全牌候補になった。でもその状況変化があった瞬間にツモ切りリーチをかけたことによりその今の今安全性が高くなった牌たちを狙った手ではないかという疑いをかけなければならなくなったの」「あっ……」「つまりこのツモ切りリーチは6種もの安全牌候補を6種の危険牌候補にしてしまったということ。まあ厳密に言えば残り1枚の6索もだけど」「ヤバ……考えが深過ぎる!」 麻雀の深淵をひとつ知ったような、そのくらいの衝撃だった。どう読んでるかを読んだ上のさらに深く切り込む戦術。こんな、ツモ切りをするというだけの行為にそこまでの考えがあるだなんて。「まー、あとはね。なんとなーくそろそろツモりそうだしリーチとか。そっちがそうくるなら威嚇しとくべきかなー、とか」「そうそう、他にはソバテンになっちゃったから誤魔化すためにダマってたやつをそろそろリーチしよう。とかね」「つまり『ツモ切りリーチには様々なパターンがあるけどリーチする前巡にそのヒントがあるケースはかなり多い』と覚えておけば間違いない感じですか」「「そーーーー!! そーゆーことよ!」」「やっぱりあなた凄いわぁ」「麻雀の

  • 麻雀食堂―mahjong cafeteria―   その2 第四話 覚悟の上なら痛くない

    13.第四話 覚悟の上なら痛くない「例えばさっきのはスジだったけど、こういうパターンもあるよ」 そう言ってマキさんはタコワサを咀嚼しながら牌を並べ始めた。俺もタコワサをつまんだ。大きめにカットしてあるタコが美味い。例三四②③④⑨⑨⑨23488「伍萬は当たり牌だ……」「形の上ではね。でもリーチしとかないと伍萬では役がない」「そうか、それでツモ切りリーチしとくと伍萬もアガリになるし高目の二萬も出やすいかも、ということか」「解説不要の理解力。気持ちいいくらい頭良いねキミ。お姉さん好きになっちゃいそ」「あ、私も!」「ちょっと……からかわれるのは慣れてないんで。それはやめてください、それよりもっと麻雀の勉強したいです」「ちえーー。ちょっと本気なのになー」 そう言う言葉と裏腹に顔は二人共いたずらっ子のそれだった。どう見てもからかってる。 まあ、いいか。嫌な気分にはならないし。それどころか、俺はこの時ちょっと幸せを感じていた。これは多分、人生で初めての『モテてる』という気分だ。からかわれてるとしても、全然いい。「あとはね、役があるけど見逃してるというパターンもあるのよ」「そうそう、安目だったりターゲットからじゃなかったりね」 「他には、巡目的にそろそろリーチしとくかなってのもあるわね」「もう待ってても仕方がないかって思える巡目になった、とかね」「具体的には?」と質問した。これだけでは少し分かりにくかったので。「具体的……そーね、あやの任せた」「うん、例えばね字牌のドラ単騎の七対子とかよ。7.8巡目を通過しても切ってこないようならそれはもう一生切る予定がないか持ってないかのどちらかだ

  • 麻雀食堂―mahjong cafeteria―   その2 第三話 ツモ切りリーチ

    12.第三話 ツモ切りリーチ「リーチ」 犬飼真希がリーチをかけてきた。今持ってきた牌をそのまま切っての急な方針変更。いわゆる『ツモ切りリーチ』だった。どんな意図があったのだろうか。 流局したので聞いてみると「一手替わり三色になる手替わり枚数が多い手だったからね。でも、待ってる間に手替わりの牌が減ってきたからリーチにしたの」 なるほど。 次局「おっ、これもアレだわ」「なに?」「ツモ切りリーチ」 そう言って今度はあやのさんがツモ切りリーチをしてきた。「ツモ!」 和了形を見ると二萬と⑥筒のシャンポン待ちなタンヤオだった。「これはなんでツモ切りリーチなんですか?」「うん、まずは私がリーチする直前の河(ホー)を見てごらん。」「河?」「あ、『河』っていうのは捨て牌のことよ。麻雀は山から持ってきて河に置くの」「へぇ。そういうのは動画じゃ説明してくれなかったなー」 勉強会なだけあり勉強になる。「直前の河……ね」 あやのさんのリーチ直前の全体図はとくに俺には特別なものを見つけられなかった。「これが?」「マキの捨て牌に伍萬が出てきたでしょう。これがツモ切りリーチの理由よ」 なるほど。ツモ切りリーチということは前巡と手牌は変わっていないわけで。伍萬がロンできない手組みであることが読み取れる。 麻雀にはスジという読み方がある。二萬のスジは伍萬だ。(麻雀はメンツを作るゲーム。メンツ構成は枚数の関係上シュンツメ

  • 麻雀食堂―mahjong cafeteria―   その2 第二話 夜の麻雀勉強会

    11.第二話 夜の麻雀勉強会 オムライスを食べた日。あのあとしばらく残っていたけどいつものメンツが集まらなかった。たくさんいたお客さんも次々と帰っていき、今はもう店内にあやのさんと俺しかいない。 仕方ないから連絡先を知っている犬飼真希に連絡すると『すぐ行く』とのことだった。「犬飼さんすぐ来るって」「そう、良かったわね。私は2人きりの時間がもう少しあっても良かったケド〜」「えっ?」「なーんてね♡ 冗談よ、冗談」「あ、そう……」 あまり心臓に悪い冗談は言わないで欲しい。ただでさえ非モテな俺だ。そういうノリには慣れてない。 しかし、すぐと言っても女性は家を出るのに支度する時間が必要なはずだ。けっこう待つかなと思って構えていたのだが……ガラガラガラ 本当にすぐ来た。「お待たせぃ。私に会いたかったんでしょ。イヌイ君」「うん。ていうか全く待たされてないけど。電話切って5分経ってないっすよ?」「あはははは! 元々ここに晩酌しに来るつもりで支度してたら電話鳴ったのよ。びっくりしちゃった。店内あやのと2人だけだって言うしー。こりゃいかん、と思って急いだよね」「何がこりゃいかんなのよ。私とイヌイさん2人でもいーじゃない!」「ダメダメダメ。絶対だめ。とくにこの季節の閉店時間近いラストオーダー後はだめ。あんた暑いからってエプロンとって1枚になるでしょ」「……なるけど」「それがだめなの。エロいのよ! あんたの身体は。若い男には刺激が強いわ。自覚しなさいー。そのどデカい胸や美しすぎるくびれ。凶悪だから」「はぁ〜〜い」 あやのさんはシュンとしつつもちょっと嬉

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status